社会福祉法人 尽誠会

《よもやま世間噺(1)》

=季節の彩り=

 例年になく速く桜前線が北上しつつある話題が、連日の報道で真盛りですが、この季節の彩りの中には、いろんな人々の人生の機微か潜んでおり、人それぞれに悲喜交々の様相を呈しています。華やかな桜色の醸し出す春の祝いムードとは裏腹に、春の人生の転機を映し出す様々なエピソードがあるようです。辛い環境に陥った挙げ句、失意の中で再起を期す悲壮な覚悟を反映する彩りに見える黄色は、並行して悲愴な雰囲気を添えてくれます。 桜と菜の花のグラデーションは、春の季節を象徴する彩りといえ、進学&就職のお目出度い門出とは相反する受験失敗や意に添わぬ転職&左遷等の重大な転機を顕す彩りとして、同じ時期に花開く菜の花のイメージが交錯していそうです。出会いと別れ~一念発起して出直しを期す人生行路を目論み、見果てぬ儚き夢に身を委ね続けるつかの間の再起への思いは、まさに哀しみの彩りといえそうです。

 

 凡そ半世紀位前となる自らの青春時代には、大学受験という大きな課題が横たわり、立ちはだかっていました。何度も何度も受験失敗を繰り返す中で、悔しさの意識すら鈍麻するのを自覚し始め、失意はあれど翻意に繋がらぬ倦怠感に包まれて、帰省する電車の車窓から朦朧と眺めた畑の畦道を埋める菜の花の彩りが、落ち込んだ気持ちを益々沈み込ませてしまう色合いになって助長させていたものでした。3月下旬の彩りだといえます。故郷の南国では同じ時期に桜の季節を迎えますが、華やかなはずの桜色も  黄色とのコラボレーションに出会っては、些かくすんだ色合いに転じて、山吹色ならぬ馬糞色に感じたものでした。受験不合格の結果を持ち帰る失意の車窓の景色も、やがて目標を果たして、凱旋する刻に晴れやかな桜色に一変した至福の世界に浸る序章となる季節でもありました。半世紀弱を経て今、自分の身辺には同じような境遇の感慨はあれど、傍観することしかできぬ身内の生き様が展開されようとしています。様々な人生模様の悲哀に潜む背景を演出してくれる季節の彩りを、朦朧としながら噛みしめ直す春の陽だまりに佇んでいる今日この頃なのです。