≪ドクトル孤狸坊喰道楽(2)≫
≡名物鍋料理食い歩き≡
鍋物は一家団欒の食卓に最適な料理として、家族のメモリアル・ディのメニューやお客様の「おもてなし」メニューに供される機会が多い料理といえます。
日本全国各地の御当地名物食材を主たる具材(肉・魚・茸・野菜類etc.≫として、醤油味や味噌味仕立てで煮込んで、家族で鍋をつつき合う風情が一般的な趣向のようです。
全国津々浦々何処に棲んで居ても、最も一般的に口福に浸れるのが「すき焼き」と云えるでしょう。名物牛を飼育している土地柄であれば、特に積極的に売り出して、名店と称する老舗も仰々しく暖簾を構えることになるようです。和牛の肉質(霜降りのサシ)を愛でる趣向もさることながら、煮汁となる出汁(割り下)の甘辛い味の特長を競うのが、老舗の味自慢となっているようです。「すき焼き」と並び食することの多い一般的な料理が、「しゃぶしゃぶ」でしょうか。肉(牛・豚・馬・鶏・鯨等)や魚(いろいろ)を問わず、仕込みも至極簡単に調い、名物具材の本来の味覚にありつける料理だと云えます。鍋と名のつく羊肉の料理に「成吉思汗鍋」を取り上げることができます。主に北海道を中心に全国拡大した豪快さを満喫できる料理ですが、肉の臭みを嫌がって、好き嫌いが多いようですね。鍋料理というよりも焼肉というべきかも。
魚・肉・茸・野菜折衷の寄せ鍋の代表格が「ちゃんこ鍋」でしょう。主に相撲取りの料理というイメージが強い鍋物ですが、チマチマと箸でつついて取り分けるのではなく、大鍋で煮た具材を豪快におたまで掬い上げ、丼に盛ってモリモリ食べる趣向を愉しむ料理です。相撲部屋毎に独特のソッブ(鍋の煮汁)と味わい深いつみれ(肉・魚の団子)があるようですが、部屋の若手弟子達が下積み修行時代に、伝統の調理を仕込まれる慣習があるのです。現役引退後の生業として、ちゃんこ料理屋を開業する力士が多いのも頷ける転帰です。現役時代に活躍してその名を馳せた相撲取りに出世した者であれば、そのまま自分の馴染みの四股名を店名に使うケースが殆どのようです。
魚を愉しむ鍋料理では、日本全国で御当地名物の魚を使った鍋料理が蔓延っています。北から順番に網羅していくと、まず第一に取り上げるべきが、北海道で鮭を食する「石狩鍋」に始まって、青森の下北半島から津軽半島に広域に拡がるタラの「じゃっぱ汁」も、魚を臓物まで棄てる箇所なく、余すことなく使い切る調理法により、本場で食べると滋味深い味わいを愉しめますね。さらに南下すると、常磐地方(下北地方も)に名を馳せる鮟鱇の「どぶ汁」も食したい名物鍋ですね。鮟鱇の肝を溶き潰した味噌仕立ての煮汁で炊いた鍋料理の何と美味なることか。ほっぺが落ちる体験のできる名物鍋といえそうですね。
牡蠣を使った鍋料理は、牡蠣の産地(厚岸・松島・広島等)であれば、当然名物料理として供されているはずですが、美味しさにつられて調子に乗り、牡蠣を食べ過ぎてると、お腹を壊してしまう場合がありますよね。程々に適量を美味しく食べるべき食材といえます。
各地に名物食材を使った鍋料理は数々あれど、何てったって鍋の王様というべきは、九州地方で食べる機会の多いアラ(別称クエ)を薄い出汁で煮る「アラ鍋」といえるでしょう。白身魚とはいえ脂の乗ったブリプリの身の味わいは絶品で、大相撲九州場所では、恰好かつ至福のちゃんこ鍋の具材として供され超歓迎されますし、関東からの講演依頼をしても、超高名な大先生が「アラ鍋」に吊られてか、万難を排して日程を確保してくれる程の神通力を発揮するのです。嗚呼有難や~有難やの超高級魚といえます。普段市場に常時店頭販売されている訳ではなく、老舗料亭等から注文が入った時だけ、漁師が釣りに赴くという受注販売売の方法が一般的といわれる希少価値の高い高級魚のようで、空振りの場合も覚悟せねばなりません。一度口に入れたら口福に浸れて、きっとやみつきになるに違いありません。