《蔵出し医療談義(5)》
=成人病相関図=
「成人病」という慣用語が暫く耳に馴染んで、標準的かつ一般的だった時代を経て、現代では「生活習慣病」 と呼び倣わす新たな公用語への修正がなされてから、既に早くも約30数年が経ちました。疾病の成り立ちを表すのに相応しい呼称だとの評価で、標準化された用語としての立場を獲得できているようです。
図1 生活習慣と生活習慣病との関係性(引用元:日本成人病予防協会)
悪い生活習慣がもたらす身体の不調の代表格としては、最も頻度の多い筈の疾病として「高血圧」を取り上げることができます。血圧の高い状況が長く続くと、全身に流れる血流を送り出す動力源となるポンプとしての心臓に負担がかかってくると同時に、血を送るホースである血管の壁にも、無理が生じてしまい、壁が硬く細く脆く変質してくるのです。その結果として所謂「動脈硬化症」と呼ばれる病態の基礎変化が造り上げられます。血管の通りと流れが鈍くなってくると、全身の至る所~隅々までの臓器に血と酸素が行き渡らずに、虚血状態に陥った様々なあらゆる臓器の働きが鈍るだけに留まらず、機能低下してしまいます。各臓器別の疾患を生み出すことになるのです。特に脳循環障害による虚血(脳梗塞)や、心臓の壁の血管に生じ循環障害(心筋梗塞・狭心症等)の虚血による病態は、劇的な病状の発現により、命に係わる大病として、緊急入院治療を要する危機的状況に陥ることが多くなります。こうした生活習慣に伴う動脈硬化や代謝異常がベースになる疾病は。あらゆる病態が芋蔓式に繋がってくるものが殆どで、単独に出来上がってくるものではありません。
肝腎要の内臓然り、胆嚢膵臓や肺・胃・腸・膀胱・卵巣・子宮等々に至るまで、五臓六腑に染み渡る生活習慣由来の疾病では、いづれをとっても相互に深く絡み合って、相関図を描きながら発症してくるようです。こうした相関図の中心にドンと陣取って、鎮座おわします存在こそが、「肥満」という現代の飽食文化のもたらす産物に他なりません。
「認知症」という現代社会でクローズアップされた超難物も、アミロイドβ蛋白の過剰産生・蓄積に拠るとする現段階の病因論よりは、実は生活習慣由来なのだと考える方が妥当かつ説得力を持つのではないかと思われます。筆者の思い込みによる独断と偏見の域は免れませんが、認知障害に伴う意欲低下のために、サルコペニア&フレイルに陥った虚弱者が、引き籠ってしまう結果、社会参加の機会を失すると、認知機能がさらに低下して、身体機能の低下と密接に絡み合い、悪循環を引き起こしてしまうことになるのです。これこそまさに生活習慣病の権化というべきではないでしょうか。お年寄りが周辺で見守る身内に向けて、憤りの鉾先に、「呆けてやるぞ!!」 と恫喝を加え、気合いを掛けようと煽動する行為に至っては、「出たきり老人」を演じてみる現象と同様に、何にも増してとても効果的と思われ、「寝たきり老人」となり、「死んでしまいそう??」などと、「お迎えを待つ」雰囲気を漂わせながら、気弱で不安そうな愁訴を繰り返す演出よりも、周りを支える若い衆に、圧倒的な強迫を振り翳す効果がありそうです。「フレイル」を招き易く、全身の廃用症候群に陥り易く、悪循環のサイクル発生という視点で、最も厄介極まりない病態といえそうです。今世紀に生み出された「最悪の生活習慣病」だといえるのではないでしょうか。高齢者の自立支援を促すための早急な予防対策が求められるでしょう。
図2 サルコペニアとフレイル(引用元:日本成人病予防協会)